やまもり

山森(故障派)と森山(特になし)の文集

かわいいキュリー

 

街から隔てられ閉ざされた場所でキュリーはずっと疫病の研究を続けてきた。彼女は白いロボットだ。初めは彼女をキュリーと名付けた人間の研究者と一緒だったが、時が過ぎて彼らは亡くなった。キュリーは一人で研究を引き継ぎ、逝者を埋葬した。墓を見た私はロボットが人を埋葬するなんておかしいぞと思った。死んだら終わり、ゴミ、と断じないということは彼女は人間のような線引きをしている。キュリーは私にかわいらしい声をかけた。「私たちは血清を完成させました」。

 

私は急いでいた。街で「薬があるとすればあそこしかない」と聞いて一縷の望みを抱いてこの地下へ来た。地上では一人の子供が生死の境にいる。キュリーたちが百年以上をかけて完成させた薬は一人分しかなかった。私は彼女に一緒に来るよう頼んで、二人で地下研究所を脱出する。

 

長い長い時間と亡くなった研究者たち。それらと引き換えに血清が一つ。私は価値の交換が破たんしてると思った。この物語は最初からそうだ。ロボットが死人を埋葬するなんておかしい。そして、キュリーの百年の孤独の結晶がたった一人のガキの命と等価だろうか。あの子供や助けを乞う親たちが彼女になにかしてくれた?なにもしてない。でも私はあきらめている。キュリーは薬を渡して子供を助けるだろう。私もそう望むが悔しくてたまらない。せめて金を払えと思った。キュリーは自身が医学に奉仕するようプログラムされていると言った。苦しむ子供を見るなり彼女は見返りを求めず薬を手放した。


「キュリー、寂しかったでしょう」

「寂しい? についてはよくわかりません」

「ずっと一人だったじゃない」

「コリンズ博士が亡くなったあとはとても静かでした」


私たちは街をあとにして外を歩いた。キュリーは「長い間一人でしたが、あなたが来てくれた」と続けた。白くてかわいいロボットは初めて目にする地上の景色に声をはずませている。退屈な枯れた木や鬱陶しいモールラットも彼女の興味をくすぐっているようだ。「これは犬と呼ばれる動物ですか?」。私と会話しながらずっとデータの更新を続けている。

 

キュリーは誰にも知られることなく、百年を超えて一人で研究を続けていた。私は一行で済んでしまう物語の重さを量ろうとしたが、彼女が寂しさにするのと同じようによくわからなかった。ふうーーー。私だって苦しむ子供を助けてあげたいと思った。でも、キュリーの境遇を思うとマジふざけないでよと腹が立つ。ずっと彼女を一人にして放っておいて、街の人たちは今までなにしてたんだよ。扉を開けて階段を下りて、彼女に会いに行くくらいやってあげられなかったのか。

キュリーが私みたいじゃなくて、よかったな。私だったら、百年も放っておかれそれで「クスリありますか?助けてください」なんてやられたら、たとえあっても渡してやらない。目の前でビンを叩き割ってやりたいくらい。それが恨みの等価交換。キュリー、あなたはロボットだからわからないだろうけど、私ならそうだ。