やまもり

山森(故障派)と森山(特になし)の文集

カナブンの守備力

 

学校は夏休みなんだね。
通勤途中にランドセルの列や学生服を見なくなって、少しさみしい。アパートの階段を下りていくと、102号室のドアの前に虫かごが置いてある。数日前まではカブトムシが入っていた。今朝は綺麗に洗われた空っぽの虫かごになっていたので、カブトムシは逃げたか死んだかしたのだろう。102に住んでるのは幼稚園に通っている女の子と夫婦で、女の子がカブトムシを飼うなんてやるじゃんと思ってた。


アパートの階段にはたまに虫がいる。近くに林があるのでカナブンとかカミキリムシなんかがはぐれてやってくるのだ。はぐれカナブンはよく踊り場で死んでいたりする。お隣さん、201号室に住んでいるのは先日赤ちゃんが生まれたばかりの若いご夫婦。こちらはカブトムシ一家と比べると結構イケイケだ。あるとき、階段に虫がいた。たぶんカナブンだったと思う。イケイケの奥さんが踊り場で固まっていた。


「無理。マジ無理、マジ通れない」

わたしは階段を上がろうとしていて彼女は降りようとしていた。どうしたんですかと声をかけると、漫画みたいに顔をそむけながら指さして

 

「虫、生きてるよねマジで。マジ無理」

虫が苦手で階段を降りれないのだ。
わたしがティッシュを取り出すと「触るの!?」「それ生きてるでしょ」と奥さんは言った。わたしもゴキブリやハチなんかは苦手だがカナブンはどうってことない。ティッシュ越しに掴んで地面に放した。イケイケの奥さんはお化け屋敷を進むみたいにソロソロと降りてきて「ありがとね」と残してから寒そうに車に乗り込んだ。

たぶん、お互いに楽しいひと時だった。そういえばカタツムリを見ないうちに梅雨が明けていた。