やまもり

山森(故障派)と森山(特になし)の文集

人喰い壁画の観光地、プチャラオ村

 

 

遺跡の地下で発見された美女の壁画。それを見た者は幸せになると噂が広まって、遺跡の村は観光で栄えて賑やかだ。壁画ポストカード、幸せを運ぶ美女のキーホルダー、ブロマイド、ぬいぐるみ、ハッピー壁画カレー。それらが古代人が残した絵と祭殿を取り巻いている。僕たちは別の目的でこの村に訪れたのだが、住人にとっては観光客にしか見えなかったのだ、すぐに客引きにあった。

「ぜひウチの宿に泊まってください」

宿屋の主人に声をかけられた。
少し行くと、子供に袖をひかれる。

「店で休んでいかない?遺跡コーヒーお勧めよ」

村の子供には大人顔負けの逞しさがあった。壁に描かれた美女や、誰が建てたとも知らない遺跡の美しさとは別種の、人の色があった。

 


たくさんの露店に挟まれた街道を歩いてゆく。途中で迷子の少女に会った。名を聞くとメルと答えた。両親と壁画を見に来たそうだが、はぐれてしまったらしい。僕たちはメルの親を探すことにした。

 

遺跡の地下へ通じる階段を下りてゆき扉を開ける。地下の壁に従者を侍らせた美しい女王が描かれていた。煌びやかな衣を纏った女と、讃えるように手を差し出している無数の家来たち。壁画はスカッシュができそうな地下室の壁をめいっぱいキャンバスにしていて、巨大な力強い絵だった。

 

ここまで来る途中にメルの両親らしき人は見当たらず、壁画を見ている廻りの観光客にも呼びかけたが、反応はない。僕たちは踵を返そうとした。

 


すると、扉がひとりでに閉まって、壁の女王が告げた。

 

「おまえたちを飲み込んでやろう」

「私の一部となれ」

「我が絵の色ごときが」

 

 

僕たちと観光客は絵の中に飲み込まれてしまった。

絵を見た者は幸せになる、その噂に釣られて来た観光客を壁が食べる。そうでない人間たちは、迷子の少女に化けて誘い出し、食べる。

人喰い絵。魔物。
それが壁画の正体だった。

 

僕たちは誰かが描いた絵の一部になり、絵を彩る色になった。なるほど、それはそれで幸せと呼べるのかもしれないが、人を喰った話だと思う。

 

僕らは絵画の中の迷宮を進んで、最深部にいた女王をやっつけた。女と共に壁画が消えていく。

 

遺跡をあとにして、賑わう村の広場に戻り宿屋の主人に伝えた。

 

あれは幸せの壁画なんかじゃなく人を飲み込む魔物だった。


「まさか、知らなかった」

「魔物をやっつけてくれてありがとう旅人さん」


お礼にと宿屋の主人は部屋を用意してくれた。

 


観光地として成り立っていた街のことを僕は少し気にかけた。あの壁画がなくなって、村はどうなっていくのだろう。それから、あの壁画は今までも多くの人々を飲み込んでいただろうに、村の住人たちはどうして気づかなかったのか。

 

宿で一晩を明かしたあと、主人は忙しそうにしていた。

「これから人喰い壁画のあった街として売り出します」

「もしかしたら、より人気がでるかも」


人喰い絵で栄えた人を喰ったような村。

 

僕はこの街の色に染まっていた商魂逞しい子供たちを思い出した。あの絵が人を喰おうと喰うまいと、描かれているのが美女だろうがなんだろうが、ここに住む人には関係がない。あの女王は古くは讃えられていたのだろう。遺跡を建て壁画に残した古代人は美しい彼女を敬っていたに違いない。嫉妬だったのか。

村の観光名物にされていた、高貴であったろう女王に僕は少し同情したが、人喰い壁画の彼女に比べたら、客引きの上手い村の子供たちの方がずっと大人にも思えた。