やまもり

山森(故障派)と森山(特になし)の文集

お化粧直しをする飼い犬だった

 

 

さんざん「好きだ」「愛してる」と言ってたのに、別れようって伝えた途端に憎しみをいっぱいぶつけられた。私が変わった。以前ほど彼のことが好きじゃなくなった。そうか、変わる私のところまでは彼は好きでいてくれなかったのか。

 

ホームで帰りの電車を待つ間、私はつっ立って、さっきの別れ話に気づきをぶつけていた。「別れよう」「どうしてだよ」「別れたいの」「酷いな」。

 

好きじゃなくなるのは酷い。私が酷い。だから、あれもこれも酷かったって言われたんだ。遠くから車で迎えに来てくれる彼に感謝を伝えなかったのも、とても酷かった。


ありがとうって思ってたよ

迎えに来てもらって悪いなって、いつも

 

「言わなかったろう!」

「いつもいつも、毎週毎週」

「俺は二時間もかけて行ってたんだ」

 

大変だったなら、言ってくれたら

私が電車でそっちに行ったよ

 

「言わなきゃ来ない!」

「やっとそっちから来たら、別れてくれって」

「そんなのあるか!」

 

 

あの剣幕はすごかった。
あんなに押しつぶされるみたいに怒られたの生まれて初めてだ。だから気づいて直さないと。直さなきゃ。これから別の人を傷つけないように。

到着した電車にまばらだった人たちが乗り込んだ。私もあとを追って電車に乗った。シートに座って時計を見ると家までたっぷり時間があった。


ええと、だから、私がひどいの続きだ。
彼はたくさん我慢していた。

一緒にご飯をたべるとき、助手席の私がしゃべらなかったとき。映画を観たあと私がつまらなそうだったとき、旅行の準備をみんなしたとき。どれもこれも私のため。

 

私のために頑張っていた。
頑張らせていたあげくに私から別れようなんて、
飼い犬に手を噛まれる、だ。

 

窓の外でどんどん夜景が通り過ぎてる。私の顔のテカりも一緒に映っていて、それでいくつかのことに気がついた。

今日が長かったこと。

 

それから、私はデートのときお化粧を直していた。暑い日の屋外なんかでは特に何度も。私が頻繁にトイレに行くから、それで付き合い始めてからすぐに、彼は「トイレ大丈夫?」と言ってくれるようになった。全部、生理現象でトイレに行ってるって思っていたかもしれない。

 

彼のためにお化粧直してるなんて思ったことないけど、あんな風に押しつぶすのだったら、私もあなたのために頑張ってお化粧してたんだって、対抗するのもありかもしれなかった。いや、対抗したらもっと今日が長くなっただろう。言い合いが続いて、もっとひどい顔になってた。