やまもり

山森(故障派)と森山(特になし)の文集

ログ殺しの少女(Tales of Destinies)

 

「ちょっと待ってください」

煙と共に低い声が立ちのぼった。

 

ログを殺し続けているのは彼ら自身だった。更新すればするほどにログは深く埋められ誰にも読まれず顧みられず殺されたのです。つまり、ログ殺しの犯人はブログそのものだった。しかし、それで万事解決とはいきませんね。

探偵はソファから身を起こすと手を広げて「このシステムが」と響かせた。私は「これ以上なにか」と遮ったが、探偵の調子に飲み込まれてしまった。

十四人がいた。十人は死体となった。意図的殺ログ犯たち、過失で殺めてしまった者、殺すつもりはなかったが結果的に殺ログに加担したグループ。十人の犯行と死因は様々でした。そうしてここに四人が残っているわけですが、犯人を暴いたからといって事件が終わったと思ってはいけません。

 

「どうしてですか。十人の死因は明らかで、私たち四人が殺していないのも明白になったじゃないですか」

ですから

探偵は吐いた紫煙を虚空に預けた。

それは十人についての物語。我々残された四人に別の話が用意されてあるとしても、不思議はないと言っているのです。たとえば、藤さん。あなたはこれからどうするおつもりですか?

「どうって……、警察に連絡がつかないのですから、部屋に戻って鍵を閉めて。何かあったらノックしてください。それまでは部屋から出ないつもりです」

圭子さんは相変わらず客席から私たちを見てるみたい。

 

「あの碑文!」

私たちから少し離れたスツールに腰掛けていたすず香が、長い手足をぶらんぶらんさせてこちらに近寄ってきた。

「歴史の本文でしたっけ」「読めた人、この中にいるんじゃないですか?」「ワンピース、ひとつなぎの財宝?この島のどこかにあるんでしょう!」

 

十人は、碑文に殺されたようにも見える。
あの思わせぶりな宝探しごっこと距離を置いていたおかげで私たちは生き延びているんだ。毎日毎日新しいエントリーをアップして重ねられた生存報告の下にログは埋められ殺されていった。人繋ぎの財宝。そうやってログを殺し続けているうちに人と人が繋がっているような気分になって、そうして……もう二度と記事をアップできなくなった躯が十も重なった。


「すず香ちゃん。あれは結局、人を繋ぐという意味で、財宝なんてなかったんだよ」

 

そうじゃない。


すず香は長い手足をゴムみたいにくねらせた。

「ゆいちゃんは本当に財宝を見つけたのかも。それで、殺されて……」

「ヒメカ姉も、あるって言われて、探してて、崖から突き落とされたんだよ!」

腰を九十度に曲げて誰かにお辞儀するように項垂れたすず香を、圭子さんが慰めた。

 


孤島の洋館に残された四人にまだ事件が続くのだとしたら、それはどのようなものか。生き延びた誰かが財宝のありかを知っていて、それを隠しているのか。中元すず香の言った通り「人繋ぎ」は碑文の読み方の一つでしかない。別の読み方があり、本物の財宝のありかが示されているのなら、それに気づいた者が残された四人の中にいるとすれば。……しかし、だとしても、殺す理由には届かない。生き残った一人が財宝を得ても嵐が去り警察がやってくれば全ては白日の下に晒されるだろう。

孤島がその来訪を待てるなら。

 

 

「すず香ちゃん。圭子さん、それに探偵さんも」

「財宝なんて、ない、です」

私は大きな声でしゃべった。

あると思っていたみんな、みんな死んでしまったんです。あるのかないのか分からないもののために、もう十人も死んでしまっている。探偵さんも事件を解決しようとして頑張ってくれましたが、助けられなかった。私たちだって同じ。


だから、せめてこの四人は、これから心を一つにしなきゃいけないと思う。

 

「もあ……」

 

すず香ちゃん。ダメだよ。
「ある」なんて思っちゃだめ。
あるって思ったみんなが、殺したり、殺されたり、したんだから。


みんなが、誰かが独り占めしてるんじゃないか、ありかを突き止めたんじゃないかって、お互いを疑ってこうなっちゃったんだよ。心を一つにできなかったから、みんな死んじゃったんだよ。


毎日、まだ見つかってません、なにもありませんって報告するみたいにみんな更新し続けていた。私も他の人の文章を読んで「この人もまだ見つけていない」「私と同じでまだ見つけてない」って不在通知みたいに届く新着記事を眺めて安心してた。

 

ひとつなぎの財宝があるなんて

誰かが書き残さなければ、よかった。

ゆいだって死なずに済んだ。

 

「すず香ちゃん、圭子さん、探偵さん」

「十人を殺したのは、私たちなんだよ」

「財宝なんかないって、みんなを説得できなかった私たちのせいなんだよ」

 

うん、うん、そうだね……

 

すず香は潤んだ眼で私を見つめている。
私はすず香を抱き寄せて、耳元に囁いた。

 

 

「だから、一緒に死のう」

 

 

「くっ」

 

探偵がパイプを落として躍りかかってきたが、私はすず香を盾にして防いでから彼女の背にもうひと突き。水平に突き刺したナイフの柄を前蹴りして反動を使って宙に身を回す。アンティークなテーブルの上に飛び乗るとヒールがカッカと火のように鳴った。

 

「私たちはログ殺しの共犯者」


「十人を殺した罪が、あなたたちを生かさない」
「殺人を止められなかった探偵さん、無能があなたの罪」

十人も殺されてから犯人を暴いたって、意味がないんだよ。

 

「ゆいの苦しみに気づかなかったすず香ちゃん」
「盲目があなたの罪」

 

「そして、圭子さん」
「いつも怯えて、閉じこもって、保身だけ考えて」
「あなたの自己愛、醜くて見てられないの」

殺された者の苦しみがあなたに想像できる?自分のことしか考えられないのだったら、あなたも殺されてみるといい。


「そして」

 

黒い外套をひるがえして宣明した。

 

「私の名は最愛(もあ)」
「殺されたログたちを愛してしまったのが私の罪ならば」

 

私は一人になったベビーメタル。

僕らは一人じゃない。ナウ、アンド、フォーエバー。

待っててゆい。
みんな殺してから、寄り添ってあげる。

 

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