やまもり

山森(故障派)と森山(特になし)の文集

笠地蔵(煙草一本分)

 

コンビニの監視カメラには小さな屋根がついていて、そこに雪が積もっている。軒下に設置してある灰皿を借りて私は煙草をすっていた。横を向くとカメラがこっちを向いていて、あれは防犯用で、二十四時間見張っているやつ。

笠地蔵を思い出した。

地蔵に積もった雪を払って笠をかぶせてやる親切な翁の話だ。その礼に財宝を贈られる。私のワンボックスには仕事で使う脚立が乗っているから、それを使えばあの監視カメラの雪を払ってやれそうだと思った。


夜にはカメラが恩返しにやってきた。
カメラがノーモア映画泥棒みたいに歩けるようになって、私のアパートまで歩いてきて、「雪を払ってくれてありがとう」「いや、寒そうだと思ってさ。お互い仕事ご苦労さま」。その間も私は撮られ続けていて、演技を強いられてるみたいにぎこちなく応えた。


贈られたのはハードディスク。
それと、業者がぞろぞろと彼の後ろから現われて通信線を敷設してくれた。居間のテレビとハードディスクをケーブルで繋ぐとあのコンビニの軒下が映った。輝度補正が効いているのか夜だというのに鮮明だった。

その日から私はテレビを二画面にして、片方でテレビ番組やビデオを、もう片方でコンビニの監視映像を眺めている。

再び冬がきた。

それまで監視映像が写していたのは、当然だがコンビニに出入りする客や関係者や、たむろする若者や動物で、面白くはなかったがつまらなくもなかった。だが冬になればと私は期待していた。案の定、ある雪の日の夜に男の顔が大写しされて、雪を払っているようだ。深夜になり映像が俯瞰から地に落ちると「さあここからが見ものだぞ」と私はつぶやいた。

 

画面はぐんぐんと雪道を過ぎていきどこかの家の前までやってくる。ドアが開いて寝間着の男が映った。幾人かの業者が招き入れられてハードディスクが設置された。時折映る男の顔はあのときの私みたいなのだろうと思った。

変な笠地蔵になった。
地蔵だってカメラだって同じように無事を見守っているのだろうに。そういえば、地蔵さんらはどこから財宝を持ってきたんだ?

私の前にも、その前にも同じことが起こったのだ。去年の今頃、私の顔を画面越しに見てにやついていた奴もいたんだ。おあいこだ。面白くもつまらなくもない監視映像を眺めていたかいがあった。次の冬にも、おあいこをやれると思うと待ち遠しかった。

「なあ、新入り」

私は画面の向こうに問いかけた。

そうだ、この次は酒を用意しておこう。きっと今もこれを肴に飲んでいる奴があるに違いない。いいアイディアは誰かが独り占めしているアイディアだ。この新人りもそれに気づいて、再来年には飲むだろう。