やまもり

山森(故障派)と森山(特になし)の文集

夫婦喧嘩、猫がいない

 

「ご飯は冷凍してあるから、おかずも何日分かは冷蔵庫にあるから」

 

それわたしの毒だから。バタンとドアを閉めて私は出ていく。さあ、実家に帰ろう。しばらくは顔もみたくない。物を投げつけて怒るなんてさ、あれがあいつの正体なんだよ。旦那さんを怒らせた悪者の私は退散。私がいない方が怒らなくて済むでしょ。それが私の思いやり。謝ったってなにしたって正体があれなんだからと思うと哀しい。いつも優しかった旦那さんが飛んできたモノで一瞬で嘘になった。

 

猫はいいね。全部がおまえの正体だもんな。母にしばらくいるからと伝えて、猫と遊ぶ。おまえ化け猫じゃないよね。あいつみたいに化けないよね。人の男って嫌だね。ひざに乗せて首筋を撫でてやると目を瞑って顔を揺らしてる。ふふふ。不幸をみんなしょい込んだみたいなあいつの顔。恐かった。うん、もうあんな恐い思いするのだったら、ずっと君を撫でていたい。

「恐かったんだよ」

猫は動かなかった。私はすぐに泣いた。

 

「お姉ちゃんだってなにかしたんでしょう」

「じゃなかったらXXXさんが怒るわけないよ」

母が隣に座ると猫は顔をあげてそちらへ移ってしまった。夫婦生活の大先輩よ、こういうときは優しく、いつまでだって居ていいって言うもんだぜ。わかってないなあ。XXXさんのことだって私より分かってるわけないじゃん。猫までとっちゃってさあ。猫までとっちゃって。私はいつの間にか泣く理由を探して、猫もとられたと追い打ちしていた。


「何か飲む?」

「いらない。放っておいて」

いまごろ、私がつくった毒をあいつは食べてるだろうか。きんぴらごぼうとか、ハンバーグとか、あいつの好物を、つくって、ラップして、冷蔵庫に入れてきたんだよ。モノを投げられて恐かったのに、つくったんだよ。それなのに猫もいない。