やまもり

山森(故障派)と森山(特になし)の文集

続夏風邪、仇討ちするゲーム盤

 

咳をするとズキンと頭が痛む。
鼻水が今頃になって粘度を上げてきてのどの奥にまとわりついている。のどの痛みがひいたあとにどういう了見でそれをやっているんだ鼻水め。病院でいただいた薬を飲みきった。わたしは部屋を夏風邪モードから通常モードに片づけて、溜まった家事にとりくんだ。そのあとでベッドでおとなしくしていた。漫画を読んだりスマホをいじくったりしながら、文章について考えたりもしてた。

ねえ、なにかこうドカンとすごいものが苦労せずに書けないものか。

たいしたことないと思われるのは嫌だな。

でも、たいしたことないはずないんだよねえ。だってわたしすごい文章ばかり読んできたんだもの。それでたいしたことが書けないのなら、それは何かがおかしい。読んでなかったことになっちゃう。
もしかして読まないで消費してた? いやいや。
そりゃあ少しは読むことを慰めにしてたけど? 慰めでしか読んでいないのならこんな風になるはずない。ああ、逆にもっと慰めておけばよかったのかな。

思い出せばいいのかな。

感情とその慰めを今は侮りすぎてるのかもしれない。

 

むかし、友だちと群れているときは彼女らを小馬鹿にしてたっけ。「くだらない」って「こんなのと一緒にされたくない」って。そんな風に一人を慰めていた過去のわたしが今のわたしを仇討してるのかな。やっぱり描くことよりも自分の裏書ばかり気にしてんだ。

 

そんな風に考えながら枕に顔をこすりつけたりして、眠りについた。

 

 

「あんた分かってんの?あんたが知らなくちゃいけないことを私は知っているんだよ。
私が教えなければあんたはずっと知らないまま。それでいいの?あんたが知らなくちゃいけないことなんだから。知らずには済まされない。あんた知らないでしょう? あんた以外はみんな知ってるんだ。だから、もっと怖がんなよ」

 

いいんだよ。そんなにわたしに優しくしなくても。いいの。あなたが知っていてくれれば。わたしに伝えてくれなくても。

 

「ふざけるな!知れよ! 本当はそんなちゃっちいんじゃないが、私もみんなもおまえを嫌ってる。知らなかったろう? それだけじゃないもっと知ってるんだ。あんたが知らなくちゃいけないことを。こっちは!」

 

教えてくれてありがとう。知らなかったよ。でもいいの。教えてくれなくても。あなたがわたしにしてるのは、昔にあなたが誰かにされて、それが「効いてる」こと。あなたはわたしにもそれが効くと知ってる。わたしをその薬が効く患者だと知ってる。あなたと同じ病気だと確かめたい。仲間に入れてから仲間外れにするって嫌なこと、誰かにされたんだよね。ごめんね。でも、怖くないのに怖がったらあなたもっと嫌だと思うの。

 

 

うーん、夢みてた。
知の仇討ち、仇討ちする知。


「もっと私を恐がれ」って迫るあいつもわたしだった。

知を人質にして身代金(恐れ)を要求できるのは、人質が身代金に値する大切なものじゃなきゃいけない。相手が人質の価値を知らないと交渉にならない。価値を知らぬ間抜けとは交渉できない。或いは、交渉ゲームを知りすぎるほど知っている場合に恐くなくなる。なので、交渉のゲーム盤上で白痴の駒とゲームマスターは同じ挙動をとりうる。

 

「知らないって恐いの?まずそこから教えてよ」
「なんであなたは知らないことが恐いことだって知ってるの?」
「そこから教えてよ」

 

白痴とゲームマスターはゲーム盤を囲む壁から締め出されてる。「話にならない」という形で締め出される。

 

ええと、だから、なんて考えたりして、また眠りがやってくる。わたしは夏風邪のゲーム盤から出たいよ。あとどのくらいしたら鼻水でなくなるかな。それ教えてもらっても、それまで鼻水ずるずるなのとガラガラ声なのは変わらん。

 

 

 


 

知の仇討ちか仇討ちする知か。

怖がらなければ話にならない。

どんなお喋りだって気づかないほどの小さな不安がそれをお喋りさせるのだから、不安が共有されなかったら話にならない。驚かせても恐がらない白痴とは話にならない。いや、話にならない人のことを白痴と呼ぶのだっけ。だからもっと恐がってよね。わたしがいなくなったら誰も教えてくれないよ。

不安が心の健康で不安のない心は不健康って呼ばれてる。不安のない心は喋らないから。怖がらない心は話にならない。話さない心が不健康って呼ばれて話す心が健康って呼ばれてるから、おかしいって思わない?

あのおしゃべりたちが健康ってさあ。

まったく。

伝達は伝わり続けることでしか証が立てられないから仕方ない。人は人を好きになるってことなんだけど、たまには仕事とか趣味とか外の何かも好きになったりしてよね。人ばかり読んでないでさ。