やまもり

山森(故障派)と森山(特になし)の文集

「いやな事件だったね」は、もうこれで終わりしたいというお願い

子羊が狼に食べられてしまった事件で、固く閉ざされた扉をどうやって狼が開けたのかが話題になっていた。家に子羊が一人になるのを見計らって、狼は扉の外から声をかけて、まんまと彼女自身に扉を開けさせてしまったのだ。狼はその知恵をある書物から得ていた。変装して狼だと見破られないようにすることや、怪しまれないような声のかけ方が物語には書かれていた。もちろん、子羊が狼に食べられるいやらしい場面も描かれていた。悪知恵で羊を騙した狼は警察に捕まった。羊を食べるのは悪いこと。

羊たちは羊のフリをした狼たちと狼の味方をする羊たちを扉の外に追い出して、固く扉を閉めた。物語に描かれていた子羊を食べるいやらしい狼の場面を破り捨てた。まだ何かが足りないと思った羊たちは集まってどうしたらよいか考える。扉が内側から開けられてしまうので開けられないような難しい錠を付け加えることにした。内に残った羊の中で一番頭の良い者に誰にも開けられない難しい錠を作らせて扉に取付けた。そのあとで、ある一匹の羊が自らの子を食べてしまった。「扉を開けられるのは錠を作った羊だけ」。そうして錠を作った羊を殺してしまうと、開け方の分らなくなった扉の内側で子殺しの羊が仲間を集めて言った。錠作りの羊は狼の仲間だったと。

狼の仲間は外に追い出したはずだったが、まだ内側に仲間が残っているかもしれない。奴が最後の狼の仲間だったのかもしれない。どうしたらいいだろう。羊たちが言った。
「仲間を疑うのはもう止めたい」「きっとあいつが最後だったんだ」「もう誰も喰われたりしないさ」。いや、我が子を喰った狼はまだ見つかっていない。錠作りの羊は狼ではなかった。奴が外に逃がしたか、それとも内に留まっているか。一匹なのか二匹なのか。まだ見つかっていない。この中に羊のフリをした狼がいるかもしれない。科学的捜査が必要だ。

子殺しの羊はナイフを取り出すと自らの手を切って言った。この血が狼かどうか調べてくれ。他の羊たちもそのナイフを受け取って自らの手のひらを裂いていった。扉の内に狼がいないと分かった。あとは狼の仲間がいるかどうかだが、これを疑っていたらきりがない。それよりも、これから扉が開くことのないようにさらに錠を加えようか。誰にも開けられない錠をつくれる者はいないか。羊たちはしばらく囁き合っていたが、一人がこう言った。錠作りの羊が死んでしまったから、もう誰も扉は開けられないはずだ。あれは扉じゃなくて壁になったんだ。

そういう昔話があるんだ。だからあの扉の錠は開かない。外からも内からも開けられない。あの中には、丸丸太ったおいしい羊たちがたくさんいて、鍵をかけたことも忘れて眠っていやがるのさ。