やまもり

山森(故障派)と森山(特になし)の文集

キキと絵、内部告発

空を飛べたかどうかではなくて、荷物が届いたか届かないかが宅急便。

絵のこと。
魔女の宅急便で、キキが画家を目指すお姉さんの描いた絵を見る。絵には他者の眼に映る世界があって、キキはお姉さんの世界観に触れる。知っていたつもりで知らなかったお姉さんの眼に映るもの。絵を見るのは画家のまなざしを借りること。キキは見たことがなかった他人のまなざしを見ることで大人になっていくと思うのだけど、それは、絵を見たからで、同時に、キキが自身のまなざしでしか世界を見ていなかったことを見ること。自分以外のたくさんの他者のまなざしがあるのは頭では分かっていても身体でわかる機会は多くない。もしかしたら、それは魅了という形でしか現れないかもしれない。

魔女の私は、魔女でないあなたが魔法のような絵を描くのを見たわ。この街で魔法が使えるのは私一人だけで、一人ぼっちと思っていたけれど。

 

内部告発のこと。
内部告発は内にいるその人が外に、他人になってしまうことだから、正しい告発でさえ通じずに孤立する。仲間外れにならないのが最大の関心ごとの内部で、そこから外れるには、正しさや美しさなどに魅了されなければ外れるのを受け入れるのは難しい。

絵や文章は他者のまなざしを描ける。他の人がどうであろうとわたしの眼に映る世界はこうだと描ける。仲間外れへの恐れを振り切って、正しさや美しさへ魅了された画家たちがそれらを描く。こんな絵空事に沿っては物事が進まないので、少しずる賢い企てがいるのかもしれないけど。

他者の世界はそこにあるだけで魔法のよう。魅了の手を借りさえすればという条件付きで。魅了のないところでは他者は見逃されてしまう。そして、他者との出会いも慣れてしまえば内部へ取り込まれてしまう。

私は空飛ぶ宅急便なのに。

街の人たちが魔法に慣れていくにつれ、ただの宅急便になっていった。街の内でいつもの宅急便に私がなって、私の魔法は使えなくなってしまった。私は街の人たちにとって普通の宅急便。大人は魔法なんてなくてもちゃんと届ける仕事をしなくちゃいけない。他の街の人たちと同じように。

 自分の特別さを溶かして他の人たちと同じ普通の人になるのが大人になるということ。わたしではない他の誰にでもできる宅急便の仕事。どこかで、私は魔女でなくなって街のみんなと同じになりたいと願ったのかもしれない。その願いが魔法で叶えられて、空が飛べなくなった。

「空を飛ぶってどんな気持ち?」って聞かれても、そんなの空を飛んだ人にしかわからないよ。

寂しい魔女には使い魔がいる。小説家は猫を飼う。わたしはジジになりたかった。