やまもり

山森(故障派)と森山(特になし)の文集

スイッチ

スイッチを押したらどうなるんだろう。
幼いころに繰り返し見た夢のこと。小さな丘の上にスイッチがあったのだと思う。わたしの廻りにはきりんやゾウやワニや馬や他の動物たちが過ごしていて、散歩をしたり草を食んだりしていた。草原が広がっていて、まばらに生えた木々の枝に猿たちがぶら下がっていた。人はわたし以外に誰も見当たらなかった。花も咲いていなかった。草の淡い緑と空の薄い青が遠くまで気分良さげに続いてる。ただ、丘の上にスイッチがあって、それを押したらどうなるんだろうと思うとわたしは嫌な気持ちになった。「なんでスイッチがあるのだろう。なければよかったのに」。それがあるということをわたしだけが知っていて、それがとても嫌だった。

それを押さずに済ますわけにはどうしてもいかなかった。
だってスイッチがあるのだもの。それを知っているのはわたしだけ。だから、それを押せるのもわたしだけ。人はわたししかいないから相談することもできない。わたしは丘の上を目指して歩いていく。わたしには分かっていた。スイッチを押すときっと大変なことが起こる。何が起こるかはわからないけれど、よくないことが起こる。だから、押してはいけないのだけど、もうわたしは丘の上に向かって歩いているから、もうよくないことは起こっている。空がだんだんと紫色になっていくのだけどわたしも動物たちもそのことに気を向けられない。変わらずに馬は首を垂れて草を食べていて、猿は枝にぶら下がって遊んでいた。丘の上には一本の木が生えていて、動物たちを見下ろしている。そこにスイッチがあるのだけど、わたしは押した後だと知った。空が濃い紫色になって、ゴーゴーと恐ろしい音が遠くで鳴っている気がした。動物たちは変わらずに過ごしていたのだけど、それは言葉が話せないからで心の中ではわたしを睨んでいる。変わらず草を食みながらわたしの方に眼を向けないまま、わたしを非難した。

大変なことになったのはわたしのせいじゃないけど、わたしのせいだ。
そうして、悪い予感があたったから、わたしはこうなることを知っていた。ほら、やっぱりスイッチを押してはいけなかったんだと思った。