やまもり

山森(故障派)と森山(特になし)の文集

嘘をつくことなしに嘘をつく

 

reonnona.hatenablog.com

 つづき。

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女の子を求める気持ちがよく分かるよ。

「そうね。都合のいい女をみんな求めているものね」

そうさ。女の子は変身することができるから。男はずっと男のままだけど、女の子は悪びれもなく化粧ができる。お姫様にだって母親にだって女にだって変身することができる。嘘をつくことなしに嘘がつけるんだよ。真実として嘘がつける。だから、男の都合が女の子に押し付けられるんだ。「女になる」とはよく言ったけど「女は、なる」と言った方がよりいいね。

「その都合が押し付けられるのに女はうんざりしているんだけど」

だろうね。
でも、男から見たら変身は羨ましい限りなんだ。誰かの欲望の対象に変身できるなんてとても羨ましいよ。求めるものと求められるもの、後者が求めるものにだって変身できるのだから。

「やっぱり嫌だな。男の都合だよそんなの」

でも、都合を握っているのは、その都合になるのは女の子だよ

「割に合わないと思う」

男でも、たとえば作家は女だよ。作家たちは嘘(フィクション)をつくから。嘘をつくことなしに嘘をつく。だから、男性の作家でも女性の心情をよく知っている。読者の求めるもの、読者の都合になったりするから。女の子と作家は化粧した自分を偽りだなんて思わないし、嘘と本当を分ける線なんて飛び越えるためにあるようなものなんだ。

「わたしは男の勝手な都合に付き合うのはごめんだけど、それに付き合っている人たち、都合を押し付ける男もそれに付き合う女もだけど、が楽しんでやっているのなら何も言えないな。お化粧は面倒だけど、楽しい気持ちも分かる。作家も化粧を、だから、嘘(言葉)をやっているのだろうね。それは分かるよ。あなたがイライラしていたのもその辺のことなんでしょう?」

まあね。自らの自惚れに気づかないほどの自惚れ屋は嘘と本当を見分けられると信じている。どうやって見分けるかと言えば、他人に聞くか教えてもらうのさ。なぜだかは分からないけど、自惚れ屋たちは他人が嘘をつかないと思い込んでいるから。たくさんの他人たちに支持された意見が本当だと自惚れている。たくさんの他人たちが全員嘘吐きだったらどうするんだろうね。
奴らは自分では何もわからないのさ。外から言語を見たことがないし、そもそもその外なんてないと信じていることさえ忘れるくらいに信じている。こんなにも外の痕跡が目の前にあるのに目を開こうともしない。馬鹿は自分が馬鹿ではないと信じながら眠りながら死んでいけばいいよ。言語に洗脳されているとも知らないで死んでいけばいい。愚者にお似合いの末路だ。

「嘘をつける余裕がでてきたんじゃない?」

本来ならね、外にいるのなら余裕を持って眺めていればいいのだけど、運動会を外から見ている親のようなものでどうしても感情移入しちゃうんだよ。あの子供たちはかつての自分だから。僕だって子供のころは可愛い寝顔で眠っていた。言葉は故障しているよ。僕のイライラなんて憐憫や嫉妬や嘲りも含んでいる。義憤も防衛も攻撃も含んでいるか、それらの言語の外にある。本当ならaとしか書けないものだ。しかもこのaは僕のせいではなくて、僕とは何の関係もないかもしれない。特に、君に伝わることとは何の関係もないのだと思う。
知と伝達は言語の中では何も関係がないんだ。知っていることを伝えなくてもいいし、伝えることが知ることでもない。ところが、言語という奴は伝えることを知ることだと誤認してしまうし、会話のことを思考だと誤認してしまう。

「でも、自分相手に会話することが考えることだっていいでしょう。思考が文章から逃れられないのなら逃げなくたっていいじゃない。自分と言語を使って会話するのがどうして思考の誤認だと言えるの」

こんな誰が何のためにつくったのかも知れない、僕とは何の関係もない言語の支配から、逃げたいって思わない方が僕には不思議に思えるけどね。そんなに言語に従属したいかな? 僕はごめんだね。僕は女でも作家でもないから。言語の都合に付き合うなんて嫌だよ。

「誰がなんのためにつくったか知らないなんて嘘でしょう」

そう。言語は伝えるため従わせるためにつくられている。ますますごめんだ。何も伝えたくないし誰も従わせたくなんかない。自分に伝えるのも、自分を従わせるのもごめんだ。

「わたしには伝わっていると思うけどね。こんな会話、忘れてしまうかもだけど」

矛盾していて悪いね。忘れてくれればありがたいよ。