やまもり

山森(故障派)と森山(特になし)の文集

昔の彼

こんなわたしでも恋をしたことがある。彼は内気だったけど話をするととても面白くて、優しくて、何かに向かっていつも歩いていた。初めは彼の廻りには彼の友人たちがチラホラいて、彼らは楽しげに真剣に笑ったり怒ったりしてた。その中でも彼の歩みは独特だった。少しずつ彼は一人になっていった。彼は友人たちのことをとても愛していて、友人たちは歩みを止めてしまったのだけど、友人たちの分まで一人で歩いていく決心をしていたのだと思う。
誰もいない遠くまで行った彼はもうそこにはいない友人たちに向かって「俺はここまで来たよ」と言っていた。届けたい人がどこにもいないのにまだ歩くつもりだったのだと思う。わたしと言えば、彼のことをチラチラと眺めているだけだった。よく物語なんかである前のめりに倒れる人だった。少し滑稽だと思った。彼も自分のことを滑稽だと思っていたと思う。

わたしと同じように彼を見ていた人も少しいて、その人たちが彼のことをどう思っているのだろうとわたしは思った。唖然としていたり、蔑んでいたり、困惑していたりしていたのだと思う。彼はとても困った人だった。廻りを困らせる人だった。迷惑な人だった。見ている人にものを贈りつけて「それはいらないものだからあげるよ」と手紙に書いていた。いつもそう書いてあった。「いらない」「あげるよ」。いまなら彼のことが少しわかる。彼は法外なものを賭けていた。彼は君と話すべきだったとわたしは思う。